2026年3月閉館
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
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「羅針盤」 まいやゆりこ

子ども向けに演劇を創作して20年が経つ。私の活動テーマは、「想像して、創造して、騒々しく」。子どもたちの表現が湧き出る瞬間に立ち会いたい。そう願ってしまうのは、“忘れられない光景”があるからだ。私の羅針盤とも言える事業を紹介したい。
それは、アイホールで1995年から9年間実施されていた『<親子で遊ぼう!参加型イベント>プレイ!』だ。通常は劇場前の広場で実施していたが、私が見学した2003年は雨天のため劇場内での開催だった。
この『プレイ!』は、どなたでも参加できる終日開催の企画。夕方16時までは造形ワークショップで、最後の1時間が舞踏家岩下徹さんと音楽家の即興セッションだった。造形ワークショップは、素材と遊び心をくすぐるアプローチが用意され、あとは子ども次第という自由度が高いもので当時の私には新鮮だったのだが、さらに“忘れられない光景”は後半の即興セッションでやってきた。

始まりは、岩下さんがそっと現れるところから。それは、まさに舞踏家の“身体”の登場だった。子どもたちは、どうしておじさんは手や足を複雑に曲げて、ゆっくり動いているんだろう? なんて思ったのだろうか。一定の距離をおいて観察したり、ちょっと話しかけては逃げたりしていた。そんな素直な子どもたちに岩下さんは動きで返す。そうして舞踏家の身体と無邪気な子どものコンタクトが混交し、岩下さんの後ろについていく子たちがいたり、岩下さんと戦うレンジャーが現れたりと、一つの“動”となっていった。
そこに、岩下さんにしがみつく女の子がいた。しまいには、首にぶら下がるようになった。その表情は衝動に突き動かされ必死だった。岩下さんはそんな彼女を抱え踊り続けた。すると、彼女の力が緩んでいき、いつしか“二人の動き”に変わっていったのだった。
その光景を見ながら、アーティストには相手の潜在的なものを呼び起こす力があると知った。その溢れ出したものを表現にしていく姿は、まさに芸術の真髄だと感動した。
そして劇場スタッフさんの姿も忘れられない。実は、女の子を止めに入ろうとしたら注意されたのだ。もう少し見ていてほしいと。もし私が止めていたら、貴重な体験は生まれなかっただろう。表現の場を支える姿勢を学んだ。
それから10年後にアイホールで『かむじゆうのぼうけん』を上演できたのは、私のかけがえのない財産だ。高い天井に柔らかい床、灰色の壁に囲まれた四角い演劇ホールに、子どもたちの賑やかな声が響く。あの響きが導く未来を追いかけている。

まいやゆりこ
兵庫県出身。京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科第2期/同大学大学院修士課程修了。保育士資格所持。2004年から2017年までNPO劇研「劇研なつまつり」事業プロデューサー。2014年にドイツに一年間滞在し、出産。帰国後は「想像して、創造して、騒々しく生きる」をテーマに活動中。『かむじゆうのぼうけん』作・演出。『こどもえんげきぱーく』企画。


