「伊丹想流私塾の日々」高橋恵

「伊丹想流私塾の日々」高橋恵

ある年の伊丹想流私塾の塾生募集チラシには、次のような一文が書かれていました。

「ともかく、一年つづけると、初心者は何だか知らないまに、戯曲が書けるようになり、ほんとうに賞を奪取している人もいます。」

実際、2週間に一度、原稿用紙5枚ほどの戯曲を書き、二人の師範からそれぞれ異なる視点で講評を受けて書き直し、さらに塾長から講評を受けて次のお題をもらう──このサイクルを数か月続けていると、不思議なことに「気づけば戯曲が書けるようになっている」感覚が本当に生まれます。

課題は戯曲だけではありません。俳句や短歌、歌詞の創作、私が塾生だった頃にはテレビコマーシャルの台本を書く課題もありました。さらに塾長の日には、映画の話を聞いたり、演歌を聴いたり、科学・宗教・哲学など、演劇以外の分野に触れる講義も数多くありました。

戯曲を書くためには、演劇以外の学びも大いに必要なのだと実感します。こうした幅広い刺激こそが、「知らない間に戯曲が書けるようになる」ための秘訣なのかもしれません。

師範の講評も、二人がまったく違うことを言う場合があります。どちらに従えばよいのか悩むこともありますが、他の塾生への講評を聞いているうちに、「良い戯曲とは何か」「改善すべき部分はどこか」が自然とつかめてくるのです。さらに塾長からは、師範とはまた異なる視点のコメントをいただき、深く納得したり、逆にますます分からなくなったりしながら、次のお題へと進んでいきました。

十人ほどの塾生が、師範と塾長を相手に戯曲を書いては講評を受け、書き直してはまた講評を受ける──この繰り返しは、おかしな例えですが、まるで道場で乱取り稽古をしているような日々でした。

そう理解してしまえば、戯曲を提出することも、講評を受けることも、落ち着いて受け入れられるようになりました。今振り返っても、本当に貴重な経験だったと思います。

チラシの文章にあった通り、想流私塾の卒塾生の中には、戯曲賞の最終選考に残ったり、実際に受賞したりする人もいます。伊丹想流私塾は現在「伊丹想流劇塾」と名前を変えて続いており、今も若手劇作家を輩出し続けています。

この塾とエンゲキ事業が、これからも伊丹の地で長く続いていくことを願ってやみません。

高橋恵(たかはし・めぐみ)

大阪府出身。劇作家・演出家。「虚空旅団」代表。『誰故草』で第22回OMS戯曲賞大賞を受賞。主な作品にAI・HALL+岩崎正裕共同製作『フローレンスの庭』。2009年より2020年まで伊丹想流私塾、伊丹想流劇塾マスターコースにて師範を務める。劇場プロデュース公演への書下ろしも多数手がける。