2026年3月閉館
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
アーカイブサイト
「一か八かの挑戦をさせてくれた劇場」砂連尾 理

私とアイホールの最初の関わりは、一人の観客としてだった。関西や東京だけでなく、世界の最新のダンスがここで観られる。私にとってアイホールとは、そういう特別な劇場だった。
当時、ダンス企画をプロデュースされていたのは志賀玲子さんで、無音で1時間の即興ダンスを企画するなど、志賀さんが手がけるものはどれも尖っていて刺激的だった。そんな志賀さんから、「Take a chance project」という新しいダンスプロジェクトへの参加を打診されたのが、確か2001年頃だったと思う。これは「一か八かやってみる」という意味を込めた、振付家や演出家を1年に1作、計3作にわたって継続的に支援するプロジェクトで、「砂連尾理+寺田みさこ」として参加しませんかと声をかけていただいた。
それまで小さな劇場やスペースでしか発表したことがなく、アイホールのような劇場とは無縁の存在だと思っていた私たちにとって、その申し出は夢のような話だった。志賀さんとの最初のミーティングでとても緊張していたことを、今でもよく覚えている。
2002年から関わらせていただいたそのプロジェクトで、私たちは『ユラフ』『男時女時』『loves me, or loves me not』の3作品を制作した。折しも東京をはじめ全国様々な劇場で作品を発表する機会が増え始めていた時期で、ここでの制作は私たちを振付家、ダンサーとして大きく成長させてくれた。
「砂連尾理+寺田みさこ」の活動を中断し、ソロ活動を始めてベルリンでの研修から戻った翌年の2010年には、「地域とつくる舞台」シリーズにも声をかけていただいた。その時はダンスプロデューサーが小倉由佳子さんに代わっていて、小倉さんとは「砂連尾理÷野村誠」や「子どものためのダンスワークショップ」をご一緒させていただいた。

2010年から始まった「子どものためのダンスワークショップ」は、その後、担当が香井亜希子さんに代わり、コロナ禍を経た2021年まで関わらせていただいた。このワークショップは、一般的なダンス教室のように講師が考えた振付を子どもたちに一方的に指導するというものではなく、子どもたち自身が身体を通して何かを発見し、創造していく場だった。初年度の2010年にはcontact Gonzoの塚原悠也さんと講師を共にし、投石器を作ったり、平台を組み立てて会場全体をジャングルのようにしたりしながら、子どもたちがまるで野生児に戻るかのようにダンスを生み出していった。また、2014年から音楽家のぶつぐさんにアシスタントとして関わってもらうようになり、その時は、伊丹を題材にした詩を子どもたちと考え、その詩をもとにぶつぐさんに作曲してもらい、それに合わせてダンスを作った。そして2017年からは「怪談ダンス」「鬼ごっこダンス」「おねだりダンス」など、演劇とダンスをミックスした仕掛けを、劇作家・演出家の林慎一郎さんとあれこれ考えながら子どもたちと一緒に作り上げていった。

コロナ禍の2020年は、たった1日の開催ではあったが、山口英樹館長が背中を押してくださったことはとても励みとなった。そして最後となった2021年は、「ふれなくってもふれた気持ちになるダンス」というテーマで開催した。講師を共にした塚原さん、林さん、ぶつぐさんをはじめとしたアシスタントの皆さん、そして地域の子どもたちと過ごした夏の日々は、忘れがたい思い出となっている。
今こうやって振り返ると、ソロ活動をスタートさせてからアイホールで取り組んだいずれもが、私にとっては一か八かのトライアルだったように思う。

アーティストとして約20年、その間、3名ものダンスプロデューサーとこれほど長期間にわたって様々な企画に関わらせていただいた劇場は、アイホール以外にない。観客としての関わりを加えると、実に30年にも及ぶ。ここでの経験が私のダンスだけでなく、人生そのものに大きな影響を与えたことは言うまでもない。
伊丹という地で、多くの人々と出会い、学び、挑戦し続けることができた。この劇場があってよかった、心からそう思う。アイホールは3月末には終わってしまうけど、ここで過ごした時間、経験は、かけがえのないものとして私の中に生き続けると思う。


砂連尾 理(じゃれお・おさむ)
91年、寺田みさことダンスユニットを結成。02年、「TOYOTACHOREOGRAPHY AWARD 2002」にて「次代を担う振付家賞」(グランプリ)、「オーディエンス賞」をW受賞。近年はソロ活動を中心にアートと社会を繋ぐ活動を展開。濱口竜介、山城知佳子の映像作品にも振付・出演。著書に『老人ホームで生まれた<とつとつダンス>—ダンスのような、介護のようなー』(晶文社)。立教大学現代心理学部映像身体学科 教授
※プロフィール写真:草本利枝



