2026年3月閉館
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
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「初めてばかりのbreak a leg」 山本正典
2014年 次世代応援企画break a leg コトリ会議『はなの台ふき』/『おなかごしのリリ』


僕があんまり人前で喋れないものだから、見かねた当時のアイホール館長のヤマグチさんが、職員のキハラさんに言ったそうです。「練習させなさい」。2014年度次世代応援企画break a leg記者会見当日。初会見に臨む僕は、JR大阪駅の喫茶店で、集合の二時間前に呼び出されて、キハラさんとマンツーマンで人前で喋る練習をしました。でも僕は、せっかく人前に出るのだからとパーマをあてた髪型を保持するのに必死で、肝心のスピーチ原稿を用意してなかったのです。というか記者会見というものは、原稿を読み上げるだけでは恥なので、直感でズバズバ喋る場所なのだと思い込んでいたのです。キハラさんはため息一つつかず、とても親身に原稿作りに付き合ってくださいました。今思えば当時の感謝の百倍感謝しなきゃいけないほどの感謝です。僕もがんばって書きました、時々パーマに指をあてながら…。
いざ迎えた記者会見では、自分でも視認出来るほど目の前が真っ白になり、第一声で「本日はお忙しい中ご来場したのでよろしくお願いいたします」と言ったそうです。場内の爆笑だけを憶えています。

チラシ作成の際も、ご迷惑をおかけしました。当時の僕は「てにをは」を外すアオリ文句に凝っていて、チラシにも出鱈目な文章を載せて得意げになっていました。職員さんから「誰かに伝わることから演劇が始まるんだよ」と諭されて、独りよがりになっていた自分に赤面したのを覚えています。思えばそこからが僕の「表現」の出発でした。逆に、それまでの僕は、自分が面白ければそれで良い、と思考を止めてしまっていたのです。そして、それでも次世代を担う劇団としてコトリ会議を推してくださったアイホールには、当時の千倍感謝しなきゃいけないほどの感謝です。
初めてアイホールで上演してから11年。ホールの広さに委縮していた僕は、改めて空っぽのアイホールを眺めて「なんだ、ちょうど良い狭さじゃないか」と生意気に独り言ちました。break a legから僕たちは、たくさんの作品をこの場所で上演して、笑ったり泣いたりしました。その間に、ぶかぶかのゆりかごが、僕たちにぴったりになって、次の季節には巣立っていくのでしょう。どこに飛ぶかは決めてませんが、僕は知っています。「記者会見には原稿を用意する」「チラシは手に取る誰かの為にある」「恐れない、演劇を楽しむ」、全部アイホールが教えてくれたことです。
本当に、ありがとうございました。


山本正典(やまもと・まさのり)
劇団コトリ会議所属。劇作家・演出家・俳優。福井県出身。ナンセンスSFを特徴としながら、ふとした瞬間にあたたかな切なさを感じさせる作風。アイホールにたくさんの思い出がある。伊丹想流劇塾三期生。2020年、第27回OMS戯曲賞で大賞。2025年、第69回岸田國士戯曲賞 最終候補。


