「一般募集の出演者でおもしろいコメディを作りなさい」 上田一軒

「一般募集の出演者でおもしろいコメディを作りなさい」 上田一軒

 僕が旗揚げしたコメディ劇団「スクエア」が、初めてAI・HALLで公演させてもらったのが1999年。僕たちの劇団の理念は簡単に言うと「人間は滑稽で、だからこそ愛しい」というものでした。劇団の作品が認められていく過程で、当時AI・HALLで続けられていた企画「ハイスクール・プロデュース」で、2002年、伊丹の高校生たちとお芝居を作らせてもらいました。その後も数年にわたって市内の小中高校へのアウトリーチ事業に参加させてもらったり、などなど多すぎて全ては書ききれませんが、AI・HALLには様々な形でお世話になりました。どれもが得難い経験となってますが、自分にとって最も思い入れが深く、多くを学ばせてもらったのが、以下の「演劇ラボラトリー」という企画です。

■ 2013年度 演劇ラボラトリー 上田一軒プロジェクト

『病は病は気からから』作:横山拓也

■ 2014年度 演劇ラボラトリー 上田一軒プロジェクト

『女珍団パラリラ』作:横山拓也

■ 2015年度 演劇ラボラトリー 上田一軒プロジェクト

『花里町プレタポルテ』作:高橋 恵

■ 2020年度 演劇ラボラトリー 上田一軒+村角太洋プロジェクト

『14RELATIVES:14人の親戚』作:村角大洋 

 いちいち自分の名前が冠されていて、なんだか自己顕示欲が強いみたいでやや恥ずかしいんですが、この企画の主旨は「年齢経験問わず、一般募集で参加された方たちに一人の演出家の指導とプロのスタッフのもとで本格的な舞台作品に出演してもらおう」というもので、前半3か月は演劇ワークショップで参加者に演者としての基礎を叩き込み、それと同時並行で台本を準備し、後半3か月はその台本を使って稽古を重ね、本番を迎えるという、劇場が綿密に準備し、みっちりと半年間かけて取り組む大掛かりなプロジェクトでした。また、僕が作家ではないので、演出家主導でその都度違う作家と組んで作品を作り出すという形になり、AI・HALLとしてもそれまでにない異色の企画だったようです。

 作品内容は、僕がコメディ劇団の主宰でしたから、「コメディをやりましょう」ということになり、作家には概して「市井の人々が登場して笑いを誘い、哀愁を感じさせる群像劇」をお願いします、という僕のわがままな注文で書き下ろしてもらいました。参加者は20代の若者から70代の年配の方まで非常に幅広く、また作家の応答も素晴らしく、扱う内容は全世代に親しんでもらえるようなものになったと思います。

 企画の目標としては、(言い方は悪いですが)「身内が見て褒めてくれる程度の素人の発表会」みたいなものではなく、一般の観客が見て楽しめるエンターテインメントを立ち上げるというものでした。当初は、「素人に客席から笑いが起こるようなコメディが演じられるのか」という不安を感じましたが、作家にもワークショップに参加してもらい、出演者の様子を見てもらったりコミュニケーションをとってもらったりして、相応しいテーマを据え、かつ、それぞれに相応しい役を「当て書き」してもらいました。加えて、出番の多寡や役柄の大小で不満を感じさせないような配役をしてほしいという無茶な注文もしましたし、参加者に合わせて書き換えもさせてもらったり、作家の方々にはほんとに苦労をかけました。演技の指導については、これは僕自身が非常に勉強になりました。演技の経験や技術がなくても人生経験さえあれば、演技へのアプローチ次第で劇は成り立つということを学び、その後の活動にも関わる大きな経験でした。とは言え、ほとんどが初舞台の出演者陣で、関わったスタッフはみんな特別な苦労をしたと思います。

 結果、その成果は上々で、どの作品をとっても一般の観客の鑑賞に堪える上演ができたと思います。演者が「プロ」ではなく「素人」だからこそ表現できた面白ささえありました。参加者の満足度も高く、演劇をやる魅力を感じ取ってもらえたようです。何年も経った今でも参加者の人たちはSNSでつながり、活動情報を交換し合ったりしてます。

 僕の演出家としての資質を十全に理解して、企画を進めてくれたAI・HALLには感謝しかありません。(実は内心へこたれそうになったときもあったんですが)一般募集の演者でもコメディは立ち上げられるということを強く確信しました。僕としては、これらの舞台の成功で味わった喜びはなかなか忘れがたく、またこういう取り組みに参加させてもらえないかなあなどと夢見てます。

上田一軒(うえだ・いっけん)

俳優・演出家。1996年「スクエア」を結成し、関西を代表するシチュエーションコメディの旗手として人気と評価を得る。2017年までの全公演の演出(兼、出演)を担当。現在、主に演出家として活動し、iaku、メイシアタープロデュース公演、新歌舞伎座、シニア劇団など演出作品多数。