2026年3月閉館
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
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「ぼうけん」はつづく 大熊ねこ

京都の小劇場・アトリエ劇研(2017年閉館)で2007年に生まれた、鑑賞+体験型子ども向け作品『かむじゆうのぼうけん』は、2018年からアイホールに拠点を移して上演を継続させていただきました。
「からだ」と「しっぽ」、2人の俳優の体躯で形作られたかいじゅうの「かむじゆう」(私は「からだ」を演じています)は、お話の中でさまざまなキャラクターと出会いながら「ぼうけん」を続けていきます。
その途中で問題やピンチに差し掛かったとき、客席でお話を鑑賞している子どもたちに語りかけます。「手伝ってくれるかな?」
物語の補助となるアイテムを創意工夫いっぱいに作る工作時間が始まり、その瞬間から子どもたちはお話の登場人物になります。そして最後にはかむじゆうたちと一緒にお話のフィナーレに参加し、保護者席に向かって全員で「ありがとうございました!」と挨拶をして終わるのです。
工作は子どもたちだけでは少し難しめの作業もあったりして、保護者の方にも手伝っていただきながら、唯一無二の親子の共同作品が出来上がっていく姿も印象的です。
そして、物語の一員になることで「かむじゆう」というお芝居のキャラクターに対してまっすぐな瞳で語りかけてくれる子どもたちの思いを受け止める時間は本当に尊く、回を重ねるごとに成長していく子どもたちとの再会の楽しみも何よりの幸せでした。

アトリエ劇研からアイホールへ、ひとことで拠点を移すと言っても、会場が違えばいろんなことが変わりました。収容可能人数に対して、大人の目がどれほど行き渡るのか、これまでブラックボックスの密度の高い空間で、関係性の密度も高く子どもたちと触れ合ってきた分、空間が広がることで関係性の構築が薄まりはしないか、お話の伝わり方がどう変わるのか。そもそも、拠点を変えて人は集まるのか。さまざまな懸案の元の再開でしたが、「子どもたちとともに創る時間の密度」という一番大切なものは変わりませんでした。それが、毎回早々のチケット完売に繋がっていたのではないかと思います。
スタッフの皆さんはじめ、「かむじゆうのぼうけん」に関わってくださったすべての方々の尽力のおかげです。本当にありがとうございました。
「ぼうけん」は、きっとまだ続くと信じて。

大熊ねこ(おおくま・ねこ)
俳優/ワークショップデザイナー。遊劇体所属。
現代劇から古典戯曲、コメディ・即興など幅広く活動しながら、演劇の手法を活かしたワークショップ指導に携わり、財団法人生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー マスターを取得。武庫川女子大学日文学科非常勤講師。2007年、第9回関西現代演劇俳優賞 女優賞受賞。2023年、十三夜会賞 助演賞受賞。


