2026年3月閉館
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
アーカイブサイト
「AI・HALLで生まれた卵たち」 芳﨑洋子

AI・HALLで数多く行われてきた事業の一つ、伊丹想流私塾の第一期生として、私は戯曲の書き方を学びました。また同時期には、演技を学ぶ演劇学校(後の演劇ファクトリー)もあり、自然な流れとしてここで学んだ者たちで劇団を立ち上げることもありました。私が所属した「糾~あざない~」もその一つです。どの劇団もそれぞれ身の丈に合った劇場で公演を重ね、いつかはAI・HALLで公演をする夢を掲げて進んでいました。
ある日、AI・HALLで学んだ結成3~5年の三劇団が召集され、「還る鮭たち企画」を行うので参加するように、との御達しを受けました。この三劇団がこれからの三年間、毎年一公演をAI・HALLと共に創り上げていくというものです。いやいや、そんな恐れ多い! などと尻込みすることはもはやできません。なぜならこの企画は、AI・HALLで生まれた卵が成長するようにと考えられた親心、かつ大きな愛の試みだからです。

その日以降、私たちは担当の山口さんに何度も戯曲を提出し、推敲し、稽古場ではダメ出しを受け、作り直しという作業を繰り返し、公演を行いました。終わってからは反省会があり、著名な演劇人のかたのご意見もいただき、次年度に向けての課題や見直し点を上げました。
自劇団としては上記の課題にプラスして、高さを生かした“空”を感じられる舞台を創りたい、搬入口を開けて外を見せたいなど、このホールでしかできないアイディアが出ていました。ここで学んだ者の強みで、AI・HALLの造りは知り尽くしていますから。
こうした流れを経て、私たちは三年に渡って公演をさせていただきました。時には数々の叱咤激励にヘコむこともありましたが、どんな親でも皆、子どものためにはすることです。そして子どもは親孝行がしたいと願うものです。にもかかわらず、この企画に参加させていただいた三劇団共に現在は演劇活動をしていません。最大の親不孝者です。それでも親からもらった愛情を忘れることはなく、これからの人生に生き続けていくはずです。

芳﨑洋子(よしざき・ようこ)
劇作家。1996年伊丹想流私塾第1期にて北村想に師事。1998年、糾~あざない~に参加し第3回~第21回公演まで作・演出を担当。伊丹想流私塾師範。第8回日本劇作家協会新人戯曲賞、第9回OMS戯曲賞佳作、ラジオドラマ脚本で平成21年度文化庁芸術祭大賞を受賞。


