伊丹想流私塾リポート  深津篤史

伊丹想流私塾リポート  深津篤史

五月より始まりました「伊丹想流私塾(そりゅうしじゅく)」、劇作家養成学校ということでいったいどういう事をやっているのか、今回はその紹介をさせて頂きます。

まず講師陣、塾長に北村想氏(プロジェクト・ナビ主宰)、師範に岩崎正裕氏(199Q太陽族主宰)、同じく師範を務めます私、深津篤史(桃園会主宰)。今回は、深津がリポート致します。将来有望な塾生はオーディションにより選ばれた10名です。

 「ま、気楽にやりましょう」と始まった当塾ですが、師範でもある私もいったいどうなるのか期待に胸ふくらませた第1回、塾長がテキストとして用意したのはチラシの束でした。ちょうど塾長の公演、『寿歌』楽日でありまして、当日配布されたものなんですが、さて、ここから、三つタイトルをえらびましょうと。

つまり、このタイトルなら観てみたいと思うものを三つ選択した訳です。10名がのべ30のタイトルを選び出し、最上位に選ばれたのは南河内万歳一座の『唇に聴いてみる』でした。私個人的に好きなお芝居なんですが、じゃこれはいったいどんな話なんだろう? と選んだ当人達に聞いてみる。「言い回しがかっこいい」「何となく深そうだ」という意見から「KISSできく話、恋愛物」と、作者の内藤氏が赤面しそうなものまで様々。

で、次の質問が、「たとえ招待券をもらってもこの芝居は観にいかない」ものをタイトルから一つ選びましょう……。私、敵は増やしたくありませんのでここには挙げません。で、やっぱりその理由を問うた訳なんですが、「ありきたり」、「ストーリーが見えてしまう」「汗臭そう」から、「横のチラシは読みにくい」といったものまで様々……。(ちなみにこれは複数のタイトルです、念の為)つけ加えますが、あくまで選んだのは塾生です。

しかし、これだけ色々な読まれ方があるのだから、やはりタイトルは重要です。塾長はまずタイトルから台本を書き始めるとのこと。当たり前のようですが、大事なことです。

そこで塾長の一言、「これだけ好き勝手難癖つけたんだから、自分でタイトルを考えてみましょう」。

いや、素晴らしいタイトルが考えられるはずです。あせる塾生、必死でタイトルを考えます。そしてもう一言、「じゃ、自分でこりゃいいと思ったタイトルなんだからそれで一本書けるでしょ」。なおあせる塾生。「じゃ、それ課題ね」と、塾長帰ってしまいました。

当塾は月2回、うち1回は我々師範が担当します。すったもんだの第2回を終えて、塾長を迎えての第3回、今回のテキストは週刊P誌に連載中のポルノ小説でした。たまたま、贔屓の女の子がグラビアだったので購入されたそうで、で、件の小説があまりに出来が悪いので、テキストにしたとのこと。今日はこれを皆で直しましょうという事になったのですが、読むに耐えない出来の悪さで直しようがありませんでした。どうも、ふざけていると思われる方もいらっしゃるかと思いますが、あくまで、<説明>と<描写>は異なるものであるとする講義であります。で、扱ったのがポルノという事で、次回の課題は「エロスで一本」に決定しました。まるでテキ屋の商売のような内容ですが、日々充実しています。

※伊丹発演劇情報誌 季刊 アイプレスVol.2(1996年8月15日発行)より転載

深津篤史(ふかつ・しげふみ)

劇作家・演出家。1967年8月8日兵庫県生まれ。1992年劇団「桃園会」を旗揚げ。1998年 『うちやまつり』で第42回岸田國士戯曲賞受賞。同年兵庫県芸術奨励賞、第16回咲くやこの花賞受賞。2006年『父帰る/釣堀にて』及び『動員挿話』で第13回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞など。2014年7月31日、5年にわたる闘病生活の末、逝去。享年四十七。